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上智大学エレクトロニクスラボの部員の雑記帳です。当ブログを真似したり参考にしたりして起きた事故、けが、損害につきまして私たちは一切責任を負いません。

ゲートドライバを作ってみた(テスラコイル用)

はじめまして

初めまして、部長のkentamuです。夏休み中に沢山ものを作ってそろそろまとめたくなったので、今回はゲートドライバ(GD)について備忘録的にまとめます。間違っている場合もありますので半信半疑でお願いします。


ゲートドライバの使い道

ゲートドライバはテスラコイルVVVFインバーター、D級アンプといったパワエレ電子工作をするうえで欠かせない回路です。
今回はテスラコイルに使うゲートドライバ―を設計してみます。
放電するテスラコイルの様子
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FET,IGBTとは


ゲートドライバはFET,IGBTといったパワー半導体を駆動するための回路のことを言います。この章ではFET,IGBTの動作について簡単に学びます。
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これらのパワー素子はFETであればゲート(G)-ソース(S)間に電圧をかけるとドレイン(D)-ソース(S)間が導通し、IGBTであればゲート(G)-エミッタ(E)間に電圧をかけるとコレクタ(C)-エミッタ(E)間が導通するといった特徴があます。
以降、ゲートはG,コレクタはC,エミッタはE、ドレインはD,ソースはSとします。
この特徴を利用して、「ゲートに電圧をかけるとC-E間(D-S間)が導通するスイッチ」という使われ方をされるため、IGBT,FETは「スイッチング素子」とも言われます。
今回のような高電圧、大電流を扱うパワー回路のスイッチングにはMOSFETという種類のFETが使われます。この記事に出てくるFETはすべてMOSFETですので留意ください。
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こちらはIGBTの画像です。左が1素子のIGBT,右が二素子入りのパワーIGBTジールです。おおきいですね。なぜパワーといったかといいますと、とても強いからです。
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先ほどのIGBTジールは2個のIGBTが上の画像のように繋がれています。こちらの回路は「ハーフブリッジ回路」と呼ばれ、C2,E1に負荷をつなぎ、上下のIGBTを交互にONすることで負荷に電圧をかけたりかけなかったりします。
ハーフブリッジについて詳しくは、こちらのURLをご参照ください。*小山高専のタマゴさんから掲載許可をいただきました。大変わかりやすい記事ですので是非ご覧ください。第一章「基礎知識編」が参考になるかと思われます。

eleken.jp

 


ゲートドライバの種類

ゲートドライバは基本、ハーフブリッジ回路やフルブリッジ回路のゲート駆動用に設計されます。
ゲートドライバで厄介なのがハイサイドのFET,IGBTのゲート電圧の確保です。
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ゲート駆動電圧(G-E間電圧)を12Vとして、ハイサイドのゲートを駆動しようとします。するとE1の電位はGNDレベルを基準としてVCCの中点電位(VCC/2)[V]であるため、G1の電位は(12V+(VCC/2))[v]としなければハイサイドのゲートを駆動できません。

ここでハイサイドのゲートを駆動する方法を2種類示します。


・レベルシフタ―+フローティング電源
回路方式によってはデューティ比0%~100%が実現可能であり、よく使われる方式であ る。ただし絶縁や回路規模が大きくなるといった特徴がある。デジタルアンプやVVVFインバーターなどに使われる。
・パルストランス
絶縁されているうえにトランスなのでフローティング電源が不要。ただしD比に制約があり、50%くらいまでのデューティ比比の時に使う。テスラコイルに最適。

以下がレベルシフタとフローティング電源についての説明です。


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*ゲート駆動信号である12Vを、GNDレベルからVCC中点電位まで引き上げる回路をレベルシフタ―といいます。
*フローティング電源とは、ハイサイドのゲートドライバに供給する電源です。こちらはGNDレベルではなくVCC中点電位を基準にゲートドライバの電源電圧を供給します。

 *こちらの資料に、様々な回路方式や詳細が書いてあるので、ご参照ください。
   https://toshiba.semicon-storage.com/info/docget.jsp?did=59459

というわけで今回はテスラコイルなのでパルストランスを使ったゲートドライバを設計します。
注意ですが、テスラコイル界隈ではパルストランスをGDTというようです。たぶんゲートドライブトランスの略だと思います。

 

 

テスラコイル用ゲートドライバの設計

まず、設計、製作したテスラコイルの回路図,基板です。
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回路図高解像度版

 


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IGBTモジュールを駆動できるように設計しました。制御回路は 

http://omapalvelin.homedns.org/tesla/SSTC/schem/feedback-sstc.gif

 の回路を使いました。
一次コイルを駆動するハーフブリッジ部分に2SK2372と書いてありますが、FGH40N60というIGBTを使用しました。

以下に、私なりのテスラコイルのゲートドライバ―の設計法を示します。
流れとしてはこんな感じです。

1:ゲートドライブ電圧を決める
2:ゲート抵抗の値を決める
3:最大ドライブ電流を求める
4:ゲートドライブトランス(GDT)を設計する
では、一つずつ見ていきましょう。

 

・ゲートドライブ電圧

ドライブ電圧とは、G-E間に掛ける電圧のことです。半導体メーカー各社のアプリケーションノートを見ると15Vが適切のようです。理由は、ゲート電圧に15V以上を加えると素子のC-E間を最大電圧まで飽和せず使えるようになるからだそうです。
20V以上高くしてしまうと。IGBTのGE耐圧を超えてしまうので、電圧盛りすぎには注意!(これもデータシートで確認してください)
私は15Vを作るのも面倒ですし、ちょうどいい電源も持ってないのでいつも12Vでゲートを駆動しています。特に問題はありません。

*GDTで駆動する際、上記回路ですと±6vが出力されます。なぜかと言いますとGDTの一次に直列に1uFのコンデンサがあり、直流電圧をカットしているためです。(オーディオの単電源駆動の時の出力コンデンサのようなものです。)ですから、GDT駆動のFETだけ別途電源を24Vで用意するか、2次の巻き数を1次の巻き数の2倍にすることで解決(±12Vを G-E間に印加)できます。

 

追記:GDTの1次にシリーズに繋いだ1uFですが、GDTには直流電圧がかかっていないので、必要ないかもしれません。直流電圧がかからない理由は、ハーフブリッジ2つ(フルブリッジ)でGDTを駆動するため、GDT一次の両端には常にVcc/2の電圧(今回は6V)がかかるため、直流は乗ってないです。このCがどんな役割をするのかわからないですので、ある時とない時の波形を確認してみます。

 

追記:ここのコンデンサは偏磁防止用でした。

詳しくはこちらhttps://selelab.hatenablog.com/entry/2018/09/22/015653

 

 

・ゲート抵抗

ゲートとゲートドライバの間には抵抗を挟みます。これはスイッチングの性能、デッドタイムなどに大きく作用するので注意が必要です。
ゲート抵抗の値が大きすぎるとスイッチングが遅くなり、小さくするとスイッチングが速くなります。
抵抗が大きすぎるとハイサイドとローサイドの素子が同時にONしてしまい貫通電流が流れ、素子が爆発するのでダメです。
抵抗が小さすぎるとゲート電圧波形にリギングが生じる上、スイッチングスピードの向上に伴い配線のインダクタンスとdi/dtによって生じるC-E間のサージ電圧も無視できなくなってきます。
ここまで聞くといったいゲート抵抗はどうすればいいんだ!という話になりますが、オシロスコープで波形を見ながらの経験則から、
 *TO-247,TO-3Pパッケージなどのディスクリート部品 ; 20Ω~5Ω
 *大きいIGBTモジュール ; 10Ω~1Ω
という感じです。IGBTモジュールであれば、各社が提供しているアプリケーションノートやデータシートにお勧めのゲート抵抗が記載されている場合が多いのでそちらを使用しましょう。
また、ゲート抵抗が小さくなった際のサージ電圧を最小限に抑える工夫で、ハーフブリッジ回路と電源の電解コンデンサまでの配線を太く短くしましょう。またセルフターンオン現象(誤スイッチング)を抑えるためにもゲートとゲートドライバまでの配線を短くしましょう。

ゲート波形を見ながら抵抗値を追い込んでいく様子は、こちらが大変参考になります。ぜひご覧ください。

 

vvvf.blog.jp

HANDENさんから掲載の許可をいただきました。ありがとうございます。


・最大ドライブ電流

ドライブ電流とはゲートをON-OFFする際に流れる電流のことです。FET,IGBTはゲート電圧で制御するスイッチではありますが、パワー半導体の高耐圧、大電流対応品はドライブ電流が無視できなくなってきます。
これは、G-E(G-S)間にはキャパシタンスがあり、ゲート電圧をON,OFFする際にこのキャパシターが充電、放電するために電流が流れます。
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素子が大きければ大きいほど、このキャパシタンスは大きくなり、結果的にドライブ電流も大きくなると考えて大丈夫でしょう。
*素子の型番によって異なりますので気になる方はデータシートで確認してください。
ゲートドライバに要求される最大ドライブ電流については素子のパッケージで大体決まっています。TO-247,TO-3Pパッケージ程度のディスクリートFET,IGBTであれば最大約2~3A,大きいパワーIGBTモジュールタイプですと5Aもあれば十分でしょう。

以下に、ドライブ電流とゲート抵抗の消費電力の計算式を示します。
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+VGE:ゲート、エミッタ間にかかる順バイアス電圧(正電圧)
-VGE;ゲート、エミッタ間にかかる逆バイアス電圧(負電圧)*上記の回路図同様通常は逆バイアス電源を使わない0Vとして計算します。
RG ;外付けゲート抵抗
Rg ;素子内部のゲート抵抗 *データシートから読み取る
fc ;スイッチング周波数 *テスラコイルの共振周波数になります。1m超えの2次コイルであれば大体50kHz~200kHz, 50cm以下の2次コイルであれば80kHz~500kHzとかですかね。しらんけど。
Qg ;0V~VGEまでの充電電荷量 *データシートから読み取る
Cies;FET,IGBTの入力要領 *データシートから読み取る

この式から、ゲートドライバの設計指針(満たさなくてはならない条件)を導くことができます。


1:最大出力電流
 これはドライブ電流(ピーク)の値になります。
2:ゲート抵抗の定格
 これはゲート抵抗の消費電力の値になります。
3:最大スイッチング周波数
 これは共振周波数fcの値なので、2次コイルから概算か計測してください。

 

*最大スイッチング周波数は2次コイルの共振周波数となります。また、GDTの巻き数計算にも使います。

 

テスラコイルの場合、GDTを用いるのでデッドタイムが確保できるかと思いますが、GDTを用いない場合はデッドタイムができるまで(ハイサイドとローサイドの同時にON現象がなくなるまで)ゲート抵抗を小さくしなければなりません。
ゲート抵抗を小さくするとドライブ電流のピーク値が大きくなることを考慮して、最大出力ドライブ電流には余裕を持たせることが吉だと思います。

今回はゲートドライブにパルストランス(ゲートドライブトランス)を用いることから、小さめのFET(5A)を使ったハーフブリッジ回路を二つ使ってパルストランスを駆動しています。
出力電流の稼げるゲートドライブ用のIC(たとえばMPC1407)を使うのが一般的でしたが、秋月電子でパーツをそろえることを念頭に置いた結果、このような回路構成になりました。トランジスタのPPで簡単にゲートドライブICの出力電流を稼ぐ方法もありますが、トランジスタがどうしても大きくなってしまうのでFETによるハーフブリッジ回路のほうがベターかと思います。まあ、ここは人それぞれですね!
ちなみに小さいハーフブリッジ回路2つを駆動しているゲートドライブIC(IR2104)はブートストラップ回路でフローティング電源を構成しています。出力電流が雑魚なのでゲート抵抗を大きめに設定することでピーク電流を小さく(ICの最大電流出力以下)しています。

 

2次コイルの共振周波数(最大スイッチング周波数)

 

3の最大スイッチング周波数ですが、2次コイル共振周波数の求め方を教えていただきました。

 

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こちらのように回路を組んで、ファンクションジェネレータで周波数を変えていきます。そして共振周波数になるとオシロスコープに表示される矩形波の頭がへこむようです。

実測したらまた記事にしようと思います。

 

ゲートドライブトランス(GDT)

 

著者本人の勉強不足故、こちらの項には間違った内容が含まれております。問題がわかり次第修正していきます。


テスラコイルはデューティ―比が最大で50%程ですので、ハーフブリッジ回路のハイサイドの電源をパルストランスで駆動することができます。そのため、ハイサイドのゲート駆動用のフローティング電源を用意する必要がありません。
このパルストランスは、ゲートをドライブするためGDTと呼ばれています。
こちらの資料を参考にしました。

https://jpc-inc.co.jp/wp-content/themes/jpc-inc/pdf/PT.pdf

 

 

GDTの設計についてはこちらの記事中版をご覧ください。

selelab.hatenablog.com

 

私は、北川工業のトロイダルコア(フェライト)を使用しました。

akizukidenshi.com

こちら断面積65mm^2のフェライトのコアに20回、0.4mmのUEW線を3本、1:1:1の巻き数比で巻きました。
20kHzくらいからパルス伝送が可能なようでした。
以下が製作したGDTの画像と80kHzを入力したときの波形です。
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[pic15]

 

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なかなかいい感じではないでしょうか。

ここでポイントなのが、矩形波の立ち上がり、立下り時に瞬間的に大きな電圧(サージ電圧)が出てしまっているので、IGBTの最大G-E間電圧を超えてしまう場合があります。
そこで、上記回路図のようにG-E間に15Vのツェナーダイオードをカソードを向い合せorアノードを向い合せにして挿入することでGE間電圧を最大でも±15Vに絞っています。
こちらがIGBTを回路図通りに接続した際に54kHzを入力したときのG-E間波形です。(ハイサイド、ローサイドの波形を同時に重ねて表示しています。)
[pic16]

 

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あんまりきれいじゃないですねwでも大丈夫です。C-E間がONになるためのG-E間電圧の閾値は十分に超えています。
レンジが5vで、サージ電圧が15Vで頭打ちになっているのがわかると思います。また、数百ナノ秒程度のデッドタイムが確保できているのがわかると思います。これがパルストランスを使った際の恩恵です。
波形の立ち上がり/立下りが緩やかな分デッドタイムが発生します。

 

***テスラコイルにおけるゲート抵抗の追い込み***

 

先ほどのゲート抵抗の選定方法ですと、なるべく小さくして且つデッドタイムができる点を探る、というような感じでしたが、GDTを使った場合ですとゲート抵抗を小さくしてもデッドタイムが大体発生するので、デッドタイムを気にするよりリギングを気にするほうがよさそうです。リギングが大きかった場合はゲート抵抗をある程度大きくして(20Ωくらいですかね)みてリギングが訛る(ゆるやかになる)ようにしましょう!

これはパルスがVgethを上回っていても精神衛生的にしたほうがいいでしょう。


最後に


私が素人で全然わかりやすくも無いしあってるかも分かりませんが、この記事が誰かのゲートドライバの設計の役に立っていただければ幸いです。

そして、先ほどの回路で無事にテスラコイルが完成しました。
初投稿から結構飛ばしてしまいましたんで、次回からはもうちょっと雑になると思います。(ゆるしてw)
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以下URLがテスラコイルの動画です。

新しいSSTC!!!! pic.twitter.com/fEP0rHiIRw

上智大学エレクトロニクスラボ (@Sophia_ele_lab) September 12, 2018
 

 


最後になりましたが、twitterでアドバイスをくださった方々、リンクの許可をくださった方々、偉大なる先人の方々に心から感謝申し上げます。


special thanks
HanDenさん、タマゴさん、さなたかさん、きょうすけさん