NE555を使ったフライバックコンバータの製作
*2020/3/6追記
この記事がブログ内で1番読まれてれてるらしいので一言添えておきます。
この回路や説明は危うい物があり、出来上がる物はまともに使えない玩具だと思ってください。*特に軽負荷時にスイッチング周波数が可聴域になるためトランスが鳴くという重大な欠陥を秘めています。TL494などの専用ICを使いましょう!
555で電源を作ろうとした大学生のネタ記事として楽しんで下さい!
こんばんはkentamuです。
最近寒すぎです。寒すぎてもうお布団から出れないでれない。おうちに炬燵ある人がうらやましいです。おばあちゃんが教えてくれたんですけど炬燵で寝ると死ぬらしいので注意です。
テスラコイルを作ったりVVVFやろうかなあと思ったりしたんですけどやっぱり電源を自作できるといいよね~ってことでACアダプタを作ってみました。
スイッチング電源と呼ばれるやつです。
Twitterを見ていると、夕孫さんや野ロ工レさんや葉ツぱさんあたりのパワエレ界隈がスイッチング電源で賑わっていて、かっこいいなあと思っていたところで面白い単語を見つけました。
「NE555を使ったフライバックコンバータ」
おおおおおお
おもしろおおおい
一般的な(界隈人の)ご家庭に転がっているICで作れると知り、一気にスイッチョンの敷居が低くなったので手を出してみました。
スイッチング電源
スイッチング電源って皆さん聞いたことありますでしょうか?さすがになめすぎですね。導入としてACアダプターについてのお話をします。
大昔、ACアダプターといったら電源トランスを使ったクソ重い鉄塊でした。今でもオーディオ用途では重いトランスを使用している場合が多いです。
最近のACアダプターは電力容量の割にとても小さく、軽くできています。身近な例だとお手持ちのスマホを充電しているコンセントに挿すアレ。あいつがスイッチング電源です。スイッチング電源の良い点は軽くて効率が良いことで、一般に充電器等で広く利用されています。悪い点はノイズを発生させてしまうことと、回路が複雑であるということです。
写真左の電源トランスはとっても重いです。これは大昔ハードオフで買ったコンポから取り出しました。
右のスイッチング電源はスマホ充電用に製作した5V3Aの電源です。とっても軽いです。
使用電力が大きく違う者同士で比べてもしょうがないような気もしますが許してください。
スイッチングっていうくらいだからスイッチしてるん?って話ですがスイッチしてます。スイッチといってもただのスイッチではなく半導体をスイッチとして使用します。
テスラコイルの時にも使ったパワーMOSFETをスイッチとして使い回路を動作させます。
スイッチと電源に何の関係があるんだ!とキレそうですがまずは落ち着いて下さい。
フライバックコンバータの回路図
今回はフライバックコンバータと呼ばれる方式のスイッチング電源を作成しました。
フライバックコンバータの動作をザックリ見てみましょう。(詳細は書ける気がしないので調べてください。ROHMさんやFUJI電機さんあたりの資料が分かり易いです。)
では回路図です。
こうやって見ると結構な回路規模ですね。
入力AC100Vを整流して直流にしてから降圧して直流を出力しています。
つまり結局はDCDCコンバータなのです。
大きく分けるとこんな感じです。
区分ごとに見ていきましょう
ノイズフィルタ+整流部
スイッチング電源は回路の特性上どうしてもノイズを発生します。そのため、ノイズの影響がコンセント側に行かないようにノイズフィルターを挿入します。
スイッチング電源では電圧の変換を直流で行うため、ブリッジダイオードによって入力の交流電圧を直流にします。(全波整流)
直流に変換した入力電圧は100uFの電解コンデンサへと接続されます。(電気を溜める、平滑する役割があります。)
コンデンサに充電する際の突入電流が激しいので、パワーサーミスタを用いて突入電流を抑制します。
スイッチングトランス
スイッチング電源といえばコイツです!
かっこいいわ〜
設計方法は後述します。EXCELを用意したのでそれで簡単にできます。記事の下の方見てください。
※フライバックコンバータでは、トランスの磁気飽和を防ぐためにコアとコアの間にギャップ(隙間)を設けます。このギャップに興奮することを「ギャップ萌え」と言います。嘘だけど。
【回路とトランスの関係】
この回路は1次巻線NpをMOSFETで駆動し、2次巻線Ns,Ndに電圧を発生させます。
Nsがメインの出力で、Ndは制御回路(ここではNE555)の電源確保のための補助巻き線です。
スイッチング+制御部
ここがスイッチング電源回路のメイン部分です。
スイッチングトランスを駆動するMOSFET、MOSFETのON/OFFを制御するNE555から成ります。
555の発振回路により、最大周波数約60kHzでFETのゲートを駆動します。CMOS版の555だとゲートを駆動するには出力が弱いのでバイポーラ版を使いました。
555の発振によりMOSFETのゲートが駆動されると、ドレイン-ソース間がON/OFFを繰り返します。(これがいわゆるスイッチング)
すると1次巻線Npには断続的に(パルス状に)入力電圧が印加されるため、2次巻線Ns,Ndには1次と同様の周波数を持つパルスが発生します。
555は5番ピンの電位により、出力のパルス幅が可変します。5番ピンがフローティング(何も接続しない状態)ですとデューティー比50%、フローティング電位以下ですとデューティー比が小さくなり、0Vにすると出力=0Vです。
よって、フィードバックとしてこの5番ピンを制御することが有効です。
すごいぞ、555!
スタートアップ部
(前置き)FETをON/OFFしてスイッチングトランスの1次巻線Npを駆動すると2次巻線Nsに電圧が発生します。補助巻線Ndによって555への電源電圧が供給されます
ですが、そもそも555が発振しなければFETがONしませんから555への電源供給もありません。
つまり、最初に555の電源電圧を供給しなければ発振が始まりません。(前置き終わり)
そこでこのスタートアップ回路を使います。電源投入時に555に約12Vの電源を与えます。
抵抗のみでやる場合もあるようですが、今回はFETを使ってみました。(バイポーラでも代用できます。)
2次側回路(整流部,フィードバック部)
1次側(入力側・コンセント側)と2次側(出力側)を、トランスとフォトカプラによって絶縁しています。
1次巻線Npに与えられるのがパルス(というか矩形波上の何か)ですので2次巻線Ns,Ndにもパルスのようなものが発生します。それをダイオードとコンデンサを用いて整流・平滑し、直流電圧として出力します。
パルスを直流にするとはどういうことでしょう?
整流平滑回路の動作と直感的理解
上図をご覧ください。2次コイルNsの出力が緑色のような矩形パルスだとします。平滑化というのはこれを押しつぶして平ら(赤線)にするイメージです。つまり赤線は直流で取り出される出力電圧です。
では実際の波形を見てみましょう。
(波形1,2)よりNsの出力波形は約±12Vのパルスであることがわかります。これを整流、平滑化して得られるのが約5Vの直流出力(波形3)です。
確かに元のパルスを押しつぶしたようになっていますね。難しいことはよくわからないのでこの辺でやめておきます。
出力電圧を一定に保つ
出力電圧は一定にしたいですよね。わざわざ出力が暴れる電源を使いたくないです。
そこでフィードバック回路を設けています。
どこにあるかといいますと回路図右下の2次側にごにょごにょついてるアレです。
TL431という基準電圧IC(コンパレータ)によって生成されたフィードバック信号を、フォトカプラで絶縁しながら1次側の制御回路に伝えています。
これは2次側につなげる負荷の重さの変動によらず出力を一定に保つ働きをしてくれます。
TL431というのは基準電圧2.5V以上の電圧をref端子に入力するとA-K間が導通するという単純なICデス。
フィードバック回路の動作確認
負荷が軽くなればなるほどパルスの周波数を低く、時にはパルスの幅を小さくします。負荷がある時と無い時で2次巻線Nsの出力電圧がどの様に変化するのか見てみましょう。
(波形4)150Ωの負荷ありのNsに比べて、(波形5)無負荷のNsのほうがパルス周波数が低いのがわかります。つまり同じ電圧にするにも、負荷が重いときはパルスを密に、軽いときにはパルスを疎にしてるわけですね。
このように、負荷が軽くなればなるほど周波数、時にはパルスの幅を変えて電圧一定に保っているのでパルス周波数変調(PFM)、パルス幅変調(PWM)と呼ばれます。
*PFM(pulse frequency modulation), PWM(pule width modulation)
ではなぜこのようなフィードバックが可能になるのか説明します。
そもそも、こちらのフライバックコンバータは最大の出力が〇〇Vの〇〇Aですよ!という目標の元設計をしました。ですから、最も負荷が重いとき(最大出力時)にパルスの周波数とパルスの幅が最大になるように設計されています。
負荷が軽いときにも最大負荷と同じパルスを与えてしまっては出力電圧が大きくなってしまいます。
そこで、TL431によって目標とする出力電圧5Vでフィードバック信号を出力します。
これをフォトカプラを通じて555に入れるとフィードバック信号を受けている間は555の出力がOFFになりスイッチ(MOSFET)をOFFにします。
再び出力電圧が5Vを下回るとフィードバック信号は消えて555からの発振が再開され、スイッチ(MOSFET)をONします。
これを繰り返すことで出力電圧を一定に保っているのですね!
(想定以上の重い負荷の場合は電圧は下がり続ける一方ですので注意。)
フライバックコンバータのトランスの設計
トランスの設計は難しいですよね!!
難しいし数式書く気になれなかったのでEXCELのシートを作成しました。
ダウンロードはこちらから。
フライバックトランス設計.zip - Google ドライブ
フライバックトランス設計.xlsx - Google ドライブ
(上がZIP版、下がエクセルファイル版です。)
使い方:緑色の部分(セル)はユーザーが任意に値を入れることが出来ます。
お好きなように数値を入力します。
***磁気飽和を起こさないために***
Ni-limit vs AL-Valueの表に出てくる黄色い点が青い線よりも内側に入るようにNpを調節しましょう。
↑ここのセルの値を変更する。
Npの値を大きくすると黄色い点が動きます。
おそらく黄色い点が赤枠内に収まっていればOKです。壊れずに動作します。おそらく。
計算をすると勝手に必要なギャップ長も出てきますので、ギャップを開けましょう。
ギャップとは2つのコアの間に開ける隙間です。(薄いプラ板が挟んである)
*エクセルの値はセンターギャップ値ですので、このように何かを挟んでギャップを確保する場合、
挟む物の厚さ=(センターギャップ長)/2
となります。
今回はシート別にスイッチングトランスを3種類用意しました。
sheet1:マルツパーツにあるトランス自作セット
sheet2:TDKのPC47,PQ3230
sheet3:TDKのPC47,PQ3220
の特性が入っています。
*実はマルツのトランスは特性不明なので勝手にTDKのPC47,EE2519-Zトランスの特性ってことにしています。当てにしないで下さい。
*PQ3230,PQ3220はいずれも日米通商(秋葉原)で手に入ります。
*オレンジ色のセルの値を変えることで、任意のトランスにする事が可能です。その場合ギャップ長自動計算の値ずれるのでお気をつけください。
そんなこんなで、できた回路はPCB化したりいろいろしました。
おまけ:試作で失敗してFET爆破させたときの写真(磁気飽和って怖いね)
フライバックコンバータの理解や設計に役立てていただければ幸いです。
時間があればWEB上で設計できるようにJSPとか使ってうまいことやってみたいと思います。できたらね。
それではまた~