LLCコンバータの設計
1ヶ月ぶりのkentamuです。
テスト前って工作のモチベめちゃくちゃ上がりますよね!
以前からなかなか作れなかったLLCコンバータもテスト前無限の進捗により一気に完成させられたので報告します。
*この記事もテスト勉強サボって書いてます(オイ
目次
1. LLCコンバータ
皆さんはLLCコンバータという言葉を聞いたことはありますでしょうか?古くはサンケン電気にてSMZコンバータという名前で開発された超ローノイズスイッチング電源です。
LLCコンバータを聞いたことがある人でも実際に作った人は少ないのではないでしょうか。今回は専用のICを使わずにLLCコンバータを製作したので、ご紹介します。
余談:Twitterの学生メイカー界隈では以前にGammaさんという方が作られてます。敬服いたします。
LLCコンバータはハーフブリッジ型の共振型DCDCコンバータに分類されます。
DCDCコンバータとは何ぞや?という方は、基礎編がこちらにありますのでご覧ください。
LLCコンバータの特徴は、トランスの1次漏れ磁束と外付けの共振コンデンサでLC共振させることでソフトスイッチングを実現していることです。
なんといっても非常に少ない部品で高効率なコンバータが作れることが魅力的です。
詳細な動作、式の検討は平地研究室のブログで勉強しました。
一読されることをお勧めします。
平地研究室技術メモ No.20140529
LLC 方式 DC/DC コンバータの回路構成と動作原理
http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20140529-3.pdf
ざっくり動作を説明すると、周波数を変えて出力電圧を制御します。通常のDCDCコンバータはパルス幅を変えて出力電圧を制御しますよね(PWM)、LLCコンバータではパルスのデューティ比が変えられないため周波数を変えて出力電圧を制御します(PFM)。
LLCコンバータの面白いところは、通常ですと嫌な奴「漏れインダクタンス」を積極的に利用して共振させるところです。漏れインダクタンスがわざと大きくなるように1次巻き線と2次巻き線をセパレートしたボビン上にまきます。
*通常だと漏れインダクタンスが嫌われる理由
漏れインダクタンスに対して半導体スイッチ(MOSFET)でON/OFFすると、インダクタの「電流を止めても電流を流し続けようとする」作用のために逆起電力が発生し、MOSFETのドレインソース電圧が跳ね上げります。これがターンオフサージと呼ばれ、最悪の場合MOSFETを破壊します。
そのため、通常のDCDCコンバータ用トランスでは1次巻き線に2次巻き線が被さるようにコイルを巻きます。
等価回路と出力特性
上図をご覧下さい。 Cr,Lm,Lrと Cr,Lrによって形成される2つの共振周波数があり、出力電圧-周波数特性が山が2つあるような形を持ちます。
周波数が高いほど電圧が低く、周波数が低いほど電圧が高くなる領域(fr~fm [Hz])で回路を動作させます。
つまり、負荷によらず出力電圧を一定にするためにこの周波数領域でMOSFETをスイッチングするよう制御するというわけです。
2. 回路図と動作
(高画質版はこちら)
LLCコンバータの回路図です。
— 上智エレラボ (@Sophia_ele_lab) July 28, 2019
電圧が上がるとフォトカプラがONし、ゲートドライバの発振周波数を上昇させることでフィードバックとします。
過電流時はBSS138がONし、周波数を上げることで保護します。 pic.twitter.com/OLwLBlJise
今回はLLCコンバータ専用IC不使用で製作しました。これが電源オタクのつまらない意地です。
使用したICは、秋月電子に売っていたIR21531Sです。
汎用ハーフブリッジドライバを使用することでコストを抑え、回路規模を小さくすることができました。
動作について説明します。
IR21531Sは、CR発振器を持つハーフブリッジドライバで、発振周波数を回路図上のR3,R4,C4で変更できるのがポイントです。
発振器のCの値は固定で、Rの値を制御することで発振周波数を変えています。
先ほど、負荷によらず出力電圧を一定にするにはスイッチング周波数をfr~fmの間で制御する必要があるといいました。これを実現するのがまさにR3,R4,C4そしてフォトカプラです。
通常はR4,C4によって最低周波数fminでMOSFETをスイッチングします。
そしていつものようにTL431で出力電圧を監視し、目標値を超えるとフォトカプラがONします。すると、R3がC4と接続され、発振周波数が高くなります。
この機構により、出力電圧を一定に保つことができるようになりました。
負荷としてLEDを繋げた際の動画がこちらです。
LLCコンバータに負荷を繋げてみました。
— 上智エレラボ (@Sophia_ele_lab) July 30, 2019
ちゃんとPFMにより定電圧制御していることが分かります。 pic.twitter.com/8hl8AHvKdM
また、過負荷時はトランスの下側についている抵抗器で電流電圧変換をし、BSS138のスレッショルド電圧1.5Vを上回ると発振周波数が高くなり過電流保護します。
記事を書いていて、我ながらよくかんがえたなあと思いました。(小学生並みの感想)
3. 付録:設計シート
どなたでもLLCコンバータが作れるようにエクセルシートとシミュレーションファイルを作りましたので、ぜひ弄りまわしてご活用ください!
シミュレーションファイルはSIMetrix(フリー版)でお使いいただけます。
回路をSIMetrixで読み込んだらF11キーを押してパラメータを適宜変更してください。
(SIMetrixダウンロード:
製品のご案内:SIMetrix:デモ版ダウンロード|株式会社 インターソフト Inter Soft
)
4. エクセルシートの使い方
使い方は超簡単です。緑色のセルの表示に従って値を入力するだけです。
電圧電流、そして使用するMOSFETの値を入力すると共振コンデンサの値やトランスの巻き数やギャップ長などが計算されます。
めちゃくちゃ便利ですね、ハーフブリッジ型のLLCコンバータであれば専用ICを使う場合でもこの計算結果が使用できます。
ちなみに発振周波数を変えるとIR21531の抵抗値やコンデンサをデータシートを見ながら選ばねばならず面倒なのでfmin,frの値はそのままでいいでしょう。
一点注意なのが、トランスの特性をPC44材のPQ26/20コア用に限定してしまっているため、それ以外のトランスでお作り頂く際はトランスの特性を変更しなければなりません。
まずは、データシートからALvalue vs Center Pole Gap, AL vs NI limitなどのパラメータを入れましょう。そして、センターポールギャップの式も変更しましょう。
そして、ALleakというのがコイル1巻きあたりの漏れインダクタンスですから、それは実測しましょう。これはコアのギャップにかかわらずほぼ一定となるので、コイルをトランスに2つ巻いて(コアを付けて)片方を短絡させたときのもう片方のインダクタンスを見ることでnH/n^2の値を算出できます。
私は1次2次とも5回巻きで測定しました。
2次コイル短絡時の1次コイルインダクタンスの測定値が1.5uHだったので、巻き数5回の2乗(25)で割ると、42nH/n^2が出てきます。この値をALleakに入れるだけです。
超簡単ですね!
トランスの設計が終わったら付録のシミュレーションファイルの値やMOSFETのパラメータを変更して実行することでソフトスイッチングの可否を容易に検討できます。また、周波数特性も解析できるため、位相補償も適宜行ってください。
SIMetrixは解析が超速いSMPS用シミュレータでサンプル回路も豊富なのでぜひご活用ください。
*ちなみにこのシミュレーションファイルもサンプル回路の改造です。
5. おわりに
今回は専用ICを使わずにLLCコンバータを作る方法がお分かり頂けたと思います。
これもすべて先人の方々が知恵をインターネットに公開して下さったおかげです。
この記事を読んでコンバータに少しでも興味を持って頂けたら幸いです。
是非作ってみてください!!
参考:
http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20140529-3.pdf
http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20160212-1.pdf
https://www.fujielectric.co.jp/about/company/gihou_2014/pdf/87-04/FEJ-87-04-0268-2014.pdf
https://www.infineon.com/dgdl/AN-1160J.pdf?fileId=5546d46256fb43b301574c5eb7f37bc0
「DC/DCコンバータの基礎から応用まで」 平地克也