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上智大学エレクトロニクスラボの部員の雑記帳です。当ブログを真似したり参考にしたりして起きた事故、けが、損害につきまして私たちは一切責任を負いません。

テスラコイルの回路

こんにちはkentamuです。前回紹介したテスラコイルの回路について詳しく見てみようと思います。

回路図

*クリックで拡大します

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*高解像度版をアップしました

 

 

では、この回路を分解してみてみましょう。

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大きく分けると大体上のような感じです。

1つづつ見てみましょう。

 

コイル

 

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コイル部は適当です(棒)

2次コイルは以下のようにキャスターを使ってまくと非常に楽です。

 

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2次コイルの放電が1次コイルに行くを防ぐために、1次コイルは2次コイルよりも太い塩ビパイプにま巻かれています。

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テスラコイルの放電の原理はLC共振です。(諸説アリ?)2次コイルと2次コイルと空気の間に形成されるキャパシタンスによって共振周波数が決まります。

1次コイルへ2次コイルの共振周波数に合わせた周波数の大電力信号が入ると、2次コイルには共振周波数の電流が流れ、電流に比例した起電力をもち、とても高い電圧が発生してすんごい放電します。

共振周波数が固定だったらいいのですが、空気とコイルによって形成されるキャパシタンスは大変不安定です。もちろんキャパシタンスが変動すると共振周波数も変化しますので、その時々の共振周波数がわかるような仕組みがないと共振周波数でパルスを与えることができず、放電させられません!

 

そこで、2次コイルの共振周波数を検知する測定器、カレントトランス(CT・変流器)をつけます。

回路図右下にあるT2がCTとなります。

80回くらい巻きました。この穴に2次コイルのGND側を1回通します。

このコイルが2次コイルに流れる電流を検知して、制御回路へと入力されます。

CTによって得られる制御回路への信号を、フィードバック信号と呼びます。

*CTには向きがございます。放電しなかったときはCTや1次コイルの向きを変えてみましょう。

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制御部

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制御部はCTによるフィードバック信号をインタラプタ信号で変調しています。

つまり、2次コイルの共振周波数であるフィードバック信号と音源となるインタラプタ信号を乗算したような波形が出力されます。

U1AとU1BはNOTに置き換えられます。(デジタル回路ではNOTをインバータと表記することがあります。)

 

回路シュミレータLTSPICEでの波形解析結果をみてみましょう。

緑色がフィードバック信号、青色がインタラプタ信号だと思ってください。↓

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この信号が回路を通ると、R1にはフィードバック信号とインタラプタ信号の乗算回路の否定、R2はフィードバック信号の否定とインタラプタ信号の乗算回路の否定が出力されます。幅の短い信号が幅の広い信号に削り取られたような感じです。

R1の電圧が緑、R2の電圧が青です。↓

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この2信号が制御部の出力信号となります。 

 

 

*フィードバック信号の発生と周辺回路

 

ここで疑問になるのがフィードバック信号がどのように発生するかです。

最初2次コイルには電流が流れていないので共振周波数が電流波形としてCTから検出されることはございません。

そこでまず、インタラプタ信号によって信号を与えます。すると、ある周波数になった瞬間に共振を起こすため2次コイルへ大電流が流れます。

そしてその電流をCTで検知してフィードバック信号として制御基板にぶち込む感じです。

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ここからは憶測で話します。間違ってたらすみません。間違いに気づいたらご指摘いただけると大変助かります。

CTによって電流を検知すると、誘導起電力としてCTにまいたコイルの両端には電圧が発生します。この電圧をD1.D2によってクランプするわけですが…

クランプダイオードの前にC3というコンデンサがありますね。

多分これがフィードバック信号の位相をいい感じにしてくれるんだと思います。

フィードバック信号と位相についてだれか教えて(えぇ…

 

ゲートドライバ

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制御部から出力された信号がゲートドライバへとつながっています。今回はゲートドライバの最大出力を5Aとして、IGBTモジュールなどゲート容量の大きい素子も駆動出来るようにしました。

こちらの回路はGDTを駆動するために、上下に配置したハーフブリッジ回路2つを交互にOn/Offして大きめの電流を得ています。(フルブリッジ回路)

このフルブリッジ回路は、Q3,Q6を同時にONしてGDTに順バイアス、その後Q4,Q5を同時にONして逆バイアスをかけています。

 フルブリッジ回路でGDTを駆動すると、GDTの両端電圧が等しくなる(ハーフブリッジの中点電位となる)ので、GDTの1次コイルには±6Vのパルスが印加されることになります。

 

ここでポイントとなるのが上側の回路の出力にあるC7です。

こちらはトランスフルブリッジ回路で駆動した際に起きてしまいがちな嫌な現象、「偏磁」を防ぐためのものです。簡単に説明します。

 

【偏磁】

偏磁とは、トランスのコアが偏った一方向に磁化されてしまうことです。

トランスの1次コイルに電圧をかけると磁束を作るために電流が発生します。これを励磁電流といいます。励磁電流とコイルへかける電圧には比例の関係があります。

通常順方向の励磁電流と逆方向の励磁電流にはイコールの関係がありバランスが取れています。

何らかの原因で順方向励磁電流と逆方向励磁電流のバランスが崩れると、徐々に片方の電流が大きくなるり、コアが一方向に磁化します。

そうしますと、、トランスが磁気飽和を起こして結果的に1次コイルのインダクタンスが下がり、電流がめちゃ流れやすくなって1次コイルに流す電流が過電流となりゲートドライバの定格を上回りFETを破壊します。

 

以上が偏磁とその影響です。怖いですね。そこで、こちらのコンデンサC7がうまく機能してくれます。

 

【偏磁防止コンデンサの役割】

このコンデンサは一方向の電流の増大によってコンデンサの両端に電圧を発生させます。すると1次コイルにかかる電圧がコンデンサの両端電圧の分だけ変化します。この変化によって比例の関係にある励磁電流も変化し、いい感じに順方向励磁電流と逆方向励磁電流のバランスがとれるという寸法です。

 

大変長ったらしい説明でごめんなさい。

こちらが私が参考にした資料です。ぜひご覧になってください。

・偏磁のメカニズム

http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20111101-1.pdf

・偏磁防止用のコンデンサの動作

http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20160901-1.pdf

 

それでは実際の入力波形と、出力波形であるGDT1-GDT2の波形を見てみましょう。

入力波形:上がフィードバック信号で、下がインタラプタ信号だと思てください。(オシレーターで作った擬似波形です。)

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出力波形(GDT1-GDT2波形):インタラプタ信号でフィードバック信号がきれいに乗算され、±6Vに振れているのがわかります。

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上の画像の波形がGDTの1次コイルへと入力されます。

 

GDT+ハーフブリッジ部

 

 

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前項のフルブリッジによって駆動していたのがこちらのトランス、GDTでございます。このGDTがQ1,Q2(ハーフブリッジ)のゲートを駆動します。

GDT巻き数比が1:1:1ですから、1次コイルを±6Vで駆動しているため2次コイルにもそれぞれ±6Vが出力されます。

実はこれがあまりよくなくて、パワーMOSFETのゲート駆動には±15Vが最適な場合が多く、±6Vだとちょっと電圧不足です。そこで後から1次コイルを15回巻、2次コイルを30回巻としたところ、なかなかいい感じに昇圧してくれました。

黄色が1次コイルの電圧、青色が2次コイルの電圧です。ちゃんと昇圧されてますね!

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 2次コイルの波形にちょっとピョコっとしたサージ電圧(オーバーシュート)が確認できます。サージ電圧を抑える方法として、ゲートに直列につながっている抵抗(ゲート抵抗)を大きくする方法があります。ゲート抵抗を変更したらオシロで確認し、波形の見た目の気が済むまで抵抗をとっかえひっかえしましょう。私はこれで気が済んだのでそのままです。

 

ゲート抵抗と並列に入っているダイオードデッドタイム確保用のものですが、GDTが勝手にデッドタイムを作ってくれるのでなくても大丈夫です。一応入れました。

 

ゲート-エミッタ間についているのツェナーダイオード(ZD)は、G-E間電圧が定格の±15Vを超えないようにするためのものです。万が一ノイズが乗ってFETのG-E間電圧の定格を超えてしまっては大変です。ZDのカソード、またはアノードを向かい合わせにして挿入することで正負の電圧を降伏電圧までの大きさにしてくれます。

 

*ここからはGDTの設計方法を紹介します。

 今回は2次コイルの共振周波数、使用するトランスのコアがわかっているものとします。

以下が今回の回路方式におけるパルストランスの巻き数の計算式です。

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  • N:巻き数(回)
  • E:パルス電圧(V)
  • T:On時間(μS)
  • ΔB:飽和磁束密度(mT)
  • Ae:コア断面積(㎟)

*Tについて

 TパルスがOnしている時間(上図)なので(矩形波の周期/2)となり、(1/(共振周波数・2))です。余裕をもって、共振周波数は実測の共振周波数-10kHzくらいに設定してみましょう。

*ΔBについて

 ΔBは正側の最大線形部分の磁束密度(Bm+)と負側の最大磁束密度(Bm-)の差となります(下図)(Bm+)=( |Bm-| )より(ΔB = 2・Bm+)となります。

ですが最大磁束密度に近づくほどB-H曲線の傾きである透磁率μが小さくなり、電流が流れすぎたり特性の悪化につながるため、先ほどの値に0.75を掛け、B-H曲線の直線部分を使うようにしましょう。 (ΔB=2・Bm+・0.75)

 

パルス電圧が正負に振れるため飽和磁束密度がこちらの領域内になります。コアによってまちまちですが、今回は(Bm+ ・ 0.75 = 300mT)としておきましょう。そうすると(ΔB=2*300=600mT)となります。

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それでは試しにこの式をつかって計算しましょう。

まずは1次コイルの計算です。

  • E=12[V]
  • T=10[μS] (共振周波数が60kHzだったので10kHzの余裕を見て50kHzで計算)
  • ΔB=600[mT]
  • Ae=40[㎟]

これで電卓を打つと

 N=5

となります。ですから1次コイルの巻き数は5回です。

次に2次コイルの計算です。ゲートに±15Vをかけたいので

  • E=30[V]
  • T=10[μS] (50kHz)
  • ΔB=600[mT]
  • Ae=40[㎟]

とします。

これで電卓を打つと

 N=12.5

となります。現実的じゃないので13回ほど巻いておきましょう。

もちろんですが電圧比は巻き数比に比例します。

倍の電圧を得たければ倍の巻き数にすればいいと思います。

2次の巻き数を1次の倍にしたとき、エネルギーが保存されるため、2次コイルに3A流したとすると、1次コイルには約6Aかかるため強力なゲートドライバを作る必要があります。回路図のゲートドライバのFETを高耐流(10A等)のものに変更するといい感じですね!

(GDTに関してはもう少し詳しく別の記事で紹介します。)

 

GDTの詳しい記事

https://selelab.hatenablog.com/entry/2018/09/24/203909

 

電源部

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 電源部は、商用電源AC100Vを用い、ヒューズ、ノイズフィルター、ブレーカーを介した後、コンデンサダイオードによって倍電圧整流されます。

ヒューズやノイフィルは万が一に備えて使っています。

(ありえんノイズがテスラコイル側の電源で発生した時にコンセントに回り込まないように。)

ブレーカーはスイッチとして使ってます。火花が散りません(雑)

倍電圧整流によって、直流242Vを得ています。

 

*その後、ブレーカーはSSR(無接点リレー)に置き換わり、ポリスイッチ(4A)を2パラを挟んで運用しました。

 

 おわりに

今回も長ったらしくなってますが、私もまだまだ分からないことばかりでして(特にフィードバック信号と位相とかそのあたりです。)間違ったことを書いていることがあります。

このように記事を書くことで勉強してますのでどうぞ暖かく見守って...等とは言わず、

間違っていましたら是非ご指摘をしていただきたい所存です。

 

P.S (使い方あってる?)現在、テスラコイルの基板をPCBにして発注をかけています!

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届いたら製作して報告しようかと思います。

 

2018-9

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届きました。白レジストはいいですね

学祭ではこちらの基板に頑張ってもらいました。

よく頑張ったね!